あれは、念願だった大型の本棚をネットで購入し、巨大な段ボール箱が家に届いた日のことでした。一人で組み立てるのが楽しみで、ワクワクしながらカッターで箱を開封しました。緩衝材の発泡スチロールを取り除き、いよいよ棚板を取り出そうと、箱の底に手を入れた瞬間、私の指先に「カサッ」という乾いた感触がありました。何かの部品だろうか。そう思って手を引き抜き、箱の中を覗き込んだ私は、息を呑みました。箱の隅に、一匹の黒く艶のあるゴキブリが、長い触角を揺らしながら潜んでいたのです。目が合った、と感じた次の瞬間、彼は猛烈なスピードで駆け出し、箱の反対側の隅へと姿を消しました。パニックと嫌悪感で、私の体は硬直しました。この巨大な段ボール箱の中に、彼と二人きり。しかも、もしかしたら一匹だけではないかもしれない。その考えが頭をよぎり、全身に鳥肌が立ちました。私は震える手で殺虫スプレーを掴み、箱の中に狙いを定めました。しかし、どこに隠れているのか分かりません。意を決して、箱を大きく傾けると、彼は再び姿を現し、今度は箱の外へと飛び出して、あっという間に部屋の家具の隙間へと消えていきました。結局、その日は彼を仕留めることはできず、私は「部屋のどこかにいる」という恐怖を抱えたまま、眠れない夜を過ごすことになりました。あの段ボールは、有名な家具メーカーから届いた、きれいな新品の箱でした。それなのに、なぜ。物流倉庫なのか、配送トラックの中なのか、今となっては知る由もありません。しかし、この一件以来、私は段ボールというものを全く信用できなくなりました。家に届いた段ボールは、必ず玄関の外で開封し、中の商品だけを家に入れる。そして、箱は即座に解体してベランダへ。あの日の恐怖が、私に鉄のルールを教えてくれました。便利な通販生活の裏側には、こうした見えないリスクが潜んでいるのだと、身をもって学んだ忘れられない出来事です。
段ボールに潜んでいたゴキブリとの遭遇体験