インターネット通販が生活に浸透し、私たちの家には日々、大小さまざまな段ボール箱が届きます。しかし、この便利な梱包材が、実はゴキブリにとってこの上ない楽園、いわば五つ星ホテル並みの快適な住処を提供しているという事実を、私たちはもっと深刻に受け止めるべきかもしれません。なぜ、ただの紙の箱である段ボールが、彼らをこれほどまでに惹きつけるのでしょうか。その理由は、段ボールが持つ特有の構造と性質に隠されています。最大の理由は、その「構造」にあります。段ボールは、表と裏のライナー(平らな紙)の間に、「中芯」と呼ばれる波状の紙が挟まれた三重構造になっています。この波状の隙間こそが、ゴキブリにとって絶好の隠れ家となるのです。体幅わずか数ミリの彼らにとって、この狭くて暗い隙間は、外敵から身を守るのに最適なシェルターです。光を嫌い、狭い場所に体を押し込むことを好む彼らの習性に、この構造は完璧にマッチしています。次に、「保温性」と「保湿性」です。紙は、それ自体が空気を含みやすく、断熱効果があります。段ボールの多層構造は、さらにその効果を高め、内部の温度と湿度を一定に保つ働きをします。これは、急な温度変化を嫌い、暖かく湿った環境を好むゴキブリにとって、非常に居心地の良い環境を提供します。冬は暖かく、夏は適度な湿度を保ってくれる、まさに天然のエアコン付き物件なのです。さらに、段ボールは彼らにとって「餌」にもなり得ます。ゴキブリは雑食性であり、デンプンを主成分とする段ボールの接着剤や、紙そのものをかじって食べることもあります。食べ物に困った時には、住処そのものが非常食になるのです。そして忘れてはならないのが、段ボールがもたらす「侵入機会」です。倉庫や配送センターなど、ゴキブリが生息している可能性のある場所を経由してくる段ボールには、すでに卵や幼虫が付着している可能性があります。私たちは、知らず知らずのうちに、彼らを家の中に招き入れる「トロイの木馬」を受け取っているのかもしれないのです。